ノンケの私が話題のレズビアン風俗へ行ってきたレポート

「あ…ん…ぁ……」
息を切るように細かく小さな喘ぎ声が漏れる。

私の目の前には、華奢で美しい女性二人が居る。二人とも足を大きく開き、組み合うように自身の陰部同士を擦り合わせている。これが噂に聞いていた「貝合わせ」なのだ。

私はというと、そういえばろくに息をするのも忘れていたことに気付く。二人の小さな喘ぎ声の邪魔をしないように、鼻でゆっくりと深呼吸をした。…胸いっぱいに入ってきたのは、女の子特有の、甘く切ない香りだった。

ノンケの私が話題のレズビアン風俗へ行ってきたレポート

「みわさん、レズ風俗って興味ないの?」

友人である御坊さんが、私に言ってきた。

「う〜〜ん…」

そんなこと言っても、私はノンケだしなあ。曖昧に返事をする。

この御坊さん、友人の中でも飛び抜けて面白い。なぜなら彼は、風俗経営者なのである。友人が風俗を経営しているということは、それだけで面白い。しかも更に面白いことに、彼は世にも珍しい「レズ風俗」の経営者なのだ。

先日発売されて増刷が続いている永田カビ先生の「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」という漫画の舞台は、まさにこの御坊さんの店「レズっ娘クラブ」である。関西を拠点とした「レズっ娘クラブ」はもう9周年を迎えるそうで、闇の深そうな風俗業界の中でそれだけ長く続けてきたということは、彼には経営者としての才があるのだろう。

「姉妹店のレズ鑑賞クラブティアラに、レズ鑑賞コースっていうのがあるねん。そんだけストリップ観に行ってるんやったら、全然アリやと思うんやけどな。あはははは」

御坊さんの顔を見る。バリバリの風俗経営者というのに、実はまだ35歳と若い。服装もパリッとしたスーツじゃなくていつもTシャツだ。童顔と金髪が、その見た目年齢をさらに下げる。友人としての感覚も近く、珍スポットに行ったり飲みに行ったりと普通に遊んでいる。 でもその合間合間でレズ風俗の電話受付なんかをしているのを見ていると、この人やっぱりレズ風俗の経営者なんだと改めて思う。

「そうやねえ…ありがとう。考えておく」

こんな感じで、レズ風俗に来てみない?というのは前々から言われていた。もちろん強要じゃない。ただただ友人としてオススメしてくれていたのだ。例えるなら「おまえ童貞なんだから一度風俗にでも行ってみたら」と友人に勧める、くらいの気持ちだと思う。女だから微妙なニュアンスの違いはあるだろうけど。

「まあ、興味あったらいつでも言うて。んははは」

その後は、いつもどおり普通に旅の話をしたり酒を飲んだりした。愉快に笑いながらも、ずっと頭の端に引っかかるものがあった。

…レズのセックスって、どんなのかなあ。

私はノンケである。レズビアンの友達は居るけれど、もちろん一緒にいても特に何もしない。ましてやセックスなんていう、人と人とが一番密着する、本来は生殖の為に男女で行う行為が、女女だと一体どのように行われるのかなんて、知る由もない。

男性のように射精したら終わり、ではない。レズビアンのセックスに果てはあるのだろうか。お互いに満足できるのだろうか。頭の中で想像だけがどんどん膨らむ。

…やっぱり気になってしょうがない。
数日後、御坊さんにメールを送っていた。

『御坊さん。レズ、見させてくれないやろか?』

そうして私は、ノンケなのに、レズ風俗に行くことになった。

〜〜〜〜〜〜〜

当日の昼、いつもみたいに御坊さんと珍スポットに行ったあと、難波へと向かっていた。

「そういえばみわさん、今日は複数ビアンコースにしといたよ」
「そうなん?良く分からないけど、手配ありがとう」
「だから観るだけじゃなくて、参加してくれて全然ええねんで。あはははは」
「えっ」

レズ風俗には、様々なコースがある。女性のお客さんが利用できる、一緒にお出かけをしたり遊んだりできるデートコース。性的サービスをしてくれるビアンコース。男性のお客さんが利用できる、レズビアン二人のセックスを観る鑑賞コース。
(※鑑賞コースはレズっ娘クラブにはなく、姉妹店レズ鑑賞クラブティアラのみ利用できるらしい)

私は鑑賞コースだとてっきり思っていたのに、御坊さんの心遣いで、鑑賞もあり性的サービスありの、盛り沢山コースになっていたようだ。

「えっ、どどどうしよう」

女の子と実際にレズをすることは考えてなかった。私はノンケだ。…でも、万が一、もしも、ハプニングが起きた場合はどうしよう。どうなってしまうのだろう。どうでもいいことだが、今日のブラジャーとパンツは何年も着倒して生地がヨレ気味である。

「まあ、頑張って。あははは」

ニヤニヤと笑う御坊さんの目は、「いっちょ一発やってこい」とでも言っているようだった。私はひとり、悶々とせずにいられなかった。

そうこうしているうちに、女の子が来た。

あ、と声が出た。以前にレズ風俗の事務所で、一緒に鍋を囲んだことがある女の子だったのだ。

アキさん(32) ティアラ宣伝写真より

「こんにちは、お久しぶりです」
「あらら、まあ。まさか、会ったことある人だとは思ってなくて」
「今日はよろしくお願いします」

こないだ会った時も綺麗だなあと思ったのだが、やっぱり綺麗な人である。長身で茶髪のロングはつやつやとしている。ぱっちりとした目と高い鼻。このひとのレズセックスを観るのかと思うと、どうにも恥ずかしくて、私は視線を合わすことができなかった。

喫茶店で少し休んだあと、ホテルへと向かった。心斎橋にあるラブホテル「ローズリップス」である。

「じゃあ僕はここで」
「わ〜御坊さん、どうしよ〜〜〜」
「いってらっしゃ〜い。楽しんで。あはははは」

自分から言いだしたのに、知らない世界への緊張から若干泣きそうになりながらホテルへと入っていく。ここまで来たら、もう、後戻りはできない。
ホテルのロビーでアキさんともう一人の女の子を待っていると、入り口が開く気配がした。

「こんにちは。ヒカルです」

ヒカルさん(27) ティアラ宣伝写真より

これまた可愛い子がやって来た。アキさんとはまた違った雰囲気で、ふわふわとした美少女という感じである。真っ白ですべすべの肌から、なんだか儚げな印象を受けた。

「どの部屋にしますか?」
「う〜〜〜〜ん」

ずらりと並んだパネルを眺める。ラブホテルなんて普段来ないので、どれが良いかなんて分からない。でも、やっぱり、なるべく雰囲気があるほうがいいのだろうか。

「あ、この部屋なんてどうですか?赤くてゴージャスですよ」
「ほんとだ、ここにしましょう」

3人でエレベーターに乗り、部屋へと向かう。

その部屋はモチーフの赤いバラがこれでもかと散りばめられていて、難波にいるのに一気に別世界に来たようだった。
手持ち無沙汰に、立ちすくむ。

「ウェルカムドリンク、何にしますか?」

ヒカルさんが聞いてくれる。

「あ…じゃあ、アイスコーヒーで」

二人は手際よくホテルの受付に電話したり、サービス券が使えるか確認したりして、それからようやく三人でソファに並んだ。

「緊張してますか?」

アキさんが聞いてくれる。

「はい、めちゃくちゃ緊張しています」

「大丈夫ですよ」

にっこりと、眩しいくらいの笑顔で笑いかけてくれる。やっぱり目を見ることができなくて、挙動不審な笑いを浮かべながら、はいと小さな声で頷いた。

「ちょっとシャワー浴びてきますね」

二人ともシャワールームに消えていき、私は一人ぽつんと、バラが咲き乱れるベッドルームに取り残された。なんなのだろう、この経験したことのないような緊張感は。
気を紛らすように、部屋の写真をパシャパシャと撮っていた。

「お待たせしましたー」

そうしてやって来たのは、下着の上にキャミソールを着た二人だった。シャワー後の二人からはふわんと石鹸の良い匂いがした。一方で私はというと、びっくりするくらい緊張して大量の汗をかいてしまっている。ああ私も、お風呂に入りたいな。ほぼ裸状態の二人を見ながら、そんなことを思う。

「えっと、鑑賞って、どんな感じで皆観ているんですか?」
「そうですね。椅子とかに座って…」
「あ、じゃあここに座らせてもらいます」

私は、ピアノの椅子のようなサイドチェストに座る。
アキさんとヒカルさんは、ベッドの上に座る。

なんとも言えない微妙な距離感の三人の間に、ホテルの有線なのかクラシック音楽が流れてくる。この異様な空間が、全くの無音じゃなくて助かったと思った。

左がヒカルさん、右がアキさん

ベッドの上で、ヒカルさんとアキさんが向き合った。そして、んふふふと笑いながら、ちゅっ、と軽いキスをした。
私はそれをベッドの横で眺めながら「お〜い! 女の子同士でキスしよったで〜!」と、心の中で叫んだ。自分の中で何か小爆発でも起きたように、一瞬で顔が赤くなるのがわかった。

ヒカルさんはふわふわしている見た目だから、なすがままに攻められてしまうのかと思いきや、ヒカルさんのほうからアキさんに手を伸ばして触りだした。優しく撫でるように、キャミソールの上から全身に触れていく。その合間合間に、ちゅ、ちゅ、と体にキスをする。

ヒカルさんの触り方を見ながら、ああ、やっぱり女の子なんだと思った。説明しにくいのだけれど、男の人だと、きっとどんなに優しい人でもこんな触り方はしない。

ヒカルさんが、アキさんの大きな胸をキャミソールの上から触りながら言う。
「おっきい…こんなおっきかったっけ?」
「んーふふふ」
アキさんが笑う。
「いいなぁ」

二人はクスクスと笑いあう。天使か妖精か、そういうものを見ているような甘くて可愛いじゃれあいだった。

ヒカルさんが、アキさんのキャミソールをするりと脱がせる。そこには確かに、思わずほうっと感嘆の息を吐いてしまうくらい大きく膨らんだ胸があった。今にもブラジャーからこぼれ落ちそうなそれに、ヒカルさんが優しくキスをする。

「ふふふふ」

くすくすと笑いながら、ヒカルさん自身もキャミソールを脱ぐ。

ヒカルさんは、アキさんの体にちゅ、ちゅと啄ばむようなキスを続ける。アキさんも、ヒカルさんの頭を撫でたり、素肌を撫でたりしている。
時折目を合わして、ふふふふと照れたように笑って行為を続けるその姿は、ものすごくやらしいだけど、ものすごく綺麗でもあった。

いつのまにかヒカルさんは、アキさんのブラジャーを外していた。解放されたアキさんの胸は、何もかも包み込んでしまいそうなくらい豊満だった。
ヒカルさんも脱いだ。ヒカルさんの胸は小ぶりだったけど、とても綺麗な形をしている。何よりぺたんこのお腹と、その体からほっそりと白い手足が伸びる様が、人形のように美しかった。

ヒカルさんはアキさんの露わになった胸にもキスをする。そうして、その先端にその唇が届いた時には
「…んっ…」
アキさんは聞こえるか聞こえないくらいの声で小さく喘いだのだった。

と、その時、ヒカルさんが微笑みながらこちらを見た。ばちっと目があってしまい、はっと我に帰る。きっと今私は、だらりと惚けた酷い顔をしていただろう。
ヒカルさんに何もかも見透かされたような気がして、
「もうこれは、やばいです〜〜。どうぞ続けてください〜〜〜」
恥ずかしさを紛らわせるように、顔を手で覆いながら私はそう言った。

「んふふふ」
ヒカルさんは微笑んで、またアキさんのほうへ向いて愛撫を続けた。

ちゅっ、ちゅうと、ヒカルさんがアキさんの体にキスをする音だけが響く。
「ん…ふ…」
アキさんは決して大きく喘ぐ訳じゃない。くすぐったいように、くすくすと笑いながら、そして嬉しさが漏れるみたいに、小さく嬌声を上げるのだ。

さわさわと撫でながら、とうとうヒカルさんの手がアキさんのショーツに辿り着いた。しゅるりと脱がせて、ついにアキさんの秘部が露わになる。

ヒカルさんがにこにこしながら、アキさんのそこをそっと撫でる。少し離れてはいたが、ぬるりとした粘液で光るのが分かった。
「えへへへ」
「へへへへ」
とんでもないことをしているというのに、見つめ合い笑う二人は、とても可愛い。

ヒカルさんが手をゆっくり上下に行き来させる。そして、何往復かした後、アキさんの中にその細い指をつぷりと挿れた。
出し入れする指の動きは、決して激しくはない。ゆっくりとゆっくりと、探るようにアキさんの中を愛撫する。アキさんのほうも気持ち良くなってきたのか、その喘ぎ声が徐々に大きくなってくる。

「…んー…ん…」

手だけでない。ヒカルさんは、アキさんのその秘部に顔を埋めた。そして、舌をペロリと出して、おもむろに舐め始めた。

「んー…は……うん……ん…」


アキさんの長い足の間に、アキさんの充血した赤と、ヒカルさんの舌の赤が時折チラチラと見える。ヒカルさんは、まるで部屋でごろごろしているようにリラックスした格好で舐め続ける。

しばらくするとアキさんは、その整った眉を切なげにしかめた。

「…いきそう」
「んー…ふふふ」
「あっいく」
「んふふ」

静かにアキさんは絶頂へと達した。

もちろんこれが真の絶頂なのか、演出ではないのかというと本当のところはわからない。けれど、目の前で女の子が優しく絡みあう姿は、今まで見てきた何にも例えられないくらい、背徳的でエロスを感じる光景だった。

ふう、と息をついて二人がこちらを向く。
思わず、背筋をピンと伸ばしてかしこまってしまう。

あんなことをしていたのに、ヒカルさんが緩く語尾を伸ばしながら聞いてくる。

「大丈夫ですか〜? クーラー、寒くないですか?」
「いやもう、暑いくらい、です」

しどろもどろになりながら、そう答える。嘘ではなく、見ているだけだというのに体が妙に火照って、びっしょりと変な汗をかいていた。

「何かしてほしいことありますか? 結構みなさん、こんな風にして欲しいってリクエストがあったりしますけどね〜」
「いや、もう、もう。ほんとうに凄くて。なんなりと。休憩しながら、どうぞ、お二人で」

頭も呂律も回らなくなってしまい、息絶え絶えにそう答えた。

二人は余裕そうである。ふふふ、と笑って見つめ合う。

そうして、ぎゅうと抱きしめ合って、まるで見せつけるように、ねっとりと絡みあうキスをしたのだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

私達はなんばウォークのレストランに居た。目の前にはアキさんとヒカルさんがにこにこしながら座っている。あの濃密な時間のあと、御坊さんの計らいで打ち上げといった感じで、一緒にご飯を食べに来たのである。

料理を取り分けながら世間話をする。最初にこの二人と対面したときはひどく緊張していたけれど、今は友人の御坊さんが隣にいるからまだ話しやすい。

レズ風俗について、というかレズビアンについて知りたいことが山ほどある。同じ女だけれども、性的対象が違う彼女達。ましてや、それを仕事としている彼女達。こんな風に話を聞く機会など、この先無いだろう。何を聞こうか。何もかも聞きたいけれど。

「ご趣味は?」

まるでお見合いのような質問で、自分でもどうなのよと思ったが、

「本が好きです。漫画も好きです。お酒も好きですね」

アキさんが答えてくれる。どんなフェティッシュな答えが返ってくると思っていたけど、どこにでも居る明るいOLのような返答に少し拍子抜けした。

「ヒカルさんは? 休日は何をしてるんですか?」
「休日は猫と居ますねー。かわいいんですよ。見ますかー?」
「かわいいー!」「かわいい」
ヒカルさんが見せてくれた写真にはスタイリッシュな猫が写っていた。
「動物が大好きなんです」
「これが寝てる姿で、これが目を開けてる姿」
ヒカルさんは、猫の写真を嬉しそうに次々と見せてくれる。その姿も、どこにでも居るノンビリとした女の子と変わらない。

だけど、二人は「レズ風俗嬢」なのだ。

「レズ風俗って、何歳くらいの、どんな人達が来るんですか?」
「結構色んな世代が来てくれますよ」
とアキさん。補足するように、御坊さんが話してくれる。
「20代の若い子も来たりするよ。鑑賞コースは男性が対象だから年齢の天井はない感じだけど、ビアンコースは30代から40代が中心かな。で、実際にビアンコースを利用する女の人達は、ほんま普通の人が多い。主婦の人も多いよ」
「えっ!主婦って…男の人と結婚してるのに?」
「そうそう。まあ、レズビアンやバイセクシャルであることを隠して結婚する人も多いからね。ノンケの人でも、欲求不満やさびしさを解消するために利用したりするみたい。女性向け風俗は少ないから」
「そうなんだ……」

パートナーに巡り会えず欲求不満の解消に利用する風俗というのは、まだ理解していた。けれども、もう既に相手がいる主婦の利用者が多いという事実には驚きを隠せなかった。もし自分の妻や彼女がレズ風俗を利用していたら、夫やパートナーは…一体どんな気持ちになるのだろう。

「働いていて、大変なこととかありますか?」
「ペニバンつけてやった時、翌日めっちゃ筋肉痛になってヤバかったことがありますね!」
アキさんが少し笑いながら言う。
「わかるー!背中痛くなりますね」
ヒカルさんが同意する。
「でも楽しいですけどね。今まで経験したことないことを経験するというか」
アキさんがハツラツとそう話す。それは、きっと私では想像もできないような刺激的な経験なのだろう。

「女の子って難しいんです。例えば初めての子とプレイしている時、イヤ!って言われたらこちらは手を止めちゃう。でも、それって本当のイヤじゃなかったりするんです。イヤ、でも…やめないでって(笑)。リピーターになったら分かるんですけどね。そこをどうやって上手く判断するかが、これからの課題ですね」
アキさんが言う。
確かに女性は、時にダメじゃないのにダメと言ったりする。その繊細な部分を見極めるのは、女であれ男であれ、よほど気を使わないとできないことだろう。でも、女性だからこそ理解できる部分は男性より多いとも思う。

「逆に、やっててよかったと思うことありますか?」
「ただ来てるだけじゃなくてやりがいがあります。相手が喜んでくれたら、満足してくれたら嬉しい。あとは目的というか、最初の望みは叶っているかなっと。働くことで、ブレてはいけないところ。お給料を貰うっていうこと」
アキさんがそんな風に言う。しっかりした人である。

「うーんやってて良かったこと。全然思い浮かべへんな〜(笑)。でも楽しいから続けてるんやと思う〜」
ヒカルさんが言う。ふわふわと笑う顔は、やっぱり可愛い。

「ここだけの話、困ったお客さんだなあ、と思う人っていますか」
「そうですね…鑑賞コースで見てる男性のお客さんに、触っていいですか?みたいに迫られたのには困りました。どうやってなだめたらいいかと思って」
ヒカルさんが答える。
冒頭の記述通り、通常鑑賞コースはレズビアンのセックスを観るという男性向けのものである。勿論お触りはNGだが、情熱的な女の子同士の絡みに欲情してしまい、暴走してしまう人が稀に居るようだ。

「キャストに迷惑かける奴は、出禁や出禁!」
御坊さんが吐き捨てるように言う。なんやかんやで、御坊さんはかなりキャストを大切にしている。

「女性客で困ったことはありますか? 言いにくいと思うんですが…」
「…告白されること、ですかね」
アキさんが、少し顔を曇らせながらそう言った。
「しゃあないね。告白はNGですって書いてるんやけどね。連絡先交換もNGにしてるし。でもどうしようもないねんな。女の人は気持ちが入りこんでしまう節があるから」
御坊さんがフォローするようにそう言った。
男性よりも生物学的に感情が豊かとされている女性は、自分の中に芽生えてしまった好意を抑えられなくなることも多いのだろう。…女の私としても、客に少し共感してしまう。
「お客さんの気持ちも分かる気がする。やっぱり体を交えてしまったら、好きになってしまうと思うんですよね」
私はそう言ったが、
「…」
ヒカルさんもアキさんも、それには何も言わなかった。
二人が何を考えてるのかも、表情からは読み取ることができない。元々それに対して何も思わないタイプなのか、それとも仕事の為に心を殺しているのか。それは分からない。

なんにせよ、恋愛感情が生まれると、誰かが必ず傷ついてしまう。

彼女達はプロのレズ風俗嬢である。仕事上では恋はしない。だからこそ、続けていられる。

「仕事で悩んだ時とかってどうしてますか?」
「ん〜、友人に言ったりとかですかね〜」
ヒカルさんがそう答える。
「まわりの人でレズ風俗やってること知ってる人、居るんですね」
「います、二人。バイの友達ですね〜」

「キャスト同士で遊びにいったりとか、そういうのも息抜きになりそうですね」
「それはないですね」
ヒカルさんが、即座に否定する。
「えっ?」
「キャストはお互いの連絡先知らんからね。一緒にホテル出るのも避けて15分ずらしたりしてね。一緒に歩いてるところを見られたら、お客さんが何を思うかって話やで」
御坊さんが言う。
キャスト同士がプライベートで交流して、そこで恋人同士になったりするとトラブルの原因になるので、仕事以外の接触は禁止しているらしい。確かに、恋愛対象が女性ということはキャスト同士でもその可能性はありうる。しかしながら思っていたよりも、レズ風俗はストイックな仕事だ。
女の子たちがそれぞれで働く姿は、肌を重ねる仕事だというのに、ひどく孤高なように思えた。

「お客さんがプレイを要求することってありますか?」
「鑑賞コースだと、分単位で内容を指定していただくこともありますね〜」
ヒカルさんが言う。
「卒業式や結婚式したこともあるで。劇団クラブティアラや。あはははは」
御坊さんが言う。
「じゃあ、台本とか用意するのかな?」
「書いたオリジナル台本をコピーして持って来ていただいた方がいましたね。逆に、台本とかありえないって人もいますよね〜」
私の知らない世界に、いろんな趣味趣向があるみたいだ。だけど確かに、自分の思う通りのレズ設定を見ることができるのなら、細部まで決めて演じてもらいたいかもしれない。

「逆に、何もしないでって人もいるんですか?」
「いますね〜。添い寝だけ、とか」
「それも凄いなあ」
現代社会では、誰だってただ人肌の温もりが欲しい瞬間があるものだ。

「レズ風俗をやってく中で、目標とか夢とかってあるんですか?」
「ありますね。実は、お店を開こうと準備中なんです。その資金作りの為に働いています」
アキさんが言う。
「すごい夢ですね! お金、貯めれてます?」
「はい。ちゃんと貯めてます」
とても立派な夢だ。貯蓄もしており、誰も何も文句など言えやしない。

「…ヒカルさんは、何かありますか?」
「ん〜…」
ヒカルさんは、可愛い顔をかしげてこう言った。
「ずっと一人で生きて行くためには、どうしたら良いんやろうって。いつも考えています」
歯に衣着せぬその言葉に、私はドキリとせずにはいられなかった。
「ええ、でも、大丈夫ですよ。こんなに可愛いんですし…」
「多分、私は一生このままなんで。どうしようか考えないとなぁ〜って。とりあえずお金を貯めていたらなんとかなるかなって、今は貯金を頑張ってますね〜」

一生このまま、ひとりきりで生きていく。

私よりも年下の女の子が、この可愛くてしょうがない女の子が、そんな考えに至るまでに、一体何があったというのだろう。

「…最後に。レズ風俗してて、楽しかった思い出ってありますか?」
「デートコースで、ピクニックしたことかな。本とか読んでいいよ、って言われて。キャッチボールして、最高やなって」
アキさんが言う。

「鴨川の河川敷で、一緒にご飯食べたのは気持ち良かったですね〜」
ヒカルさんが言う。

夜景の見えるレストランでゴージャスなコース料理を食べる、とか、ブランドの洋服を買ってもらう、とかではないことに安心する。そして、安らぎを与えているはずの彼女達が、その行為から逆に安らぎを感じているという事実に、なぜだか少しだけ切なくなった。

そう、彼女達は、レズ風俗嬢達は至って普通だった。

普通の、女の子だった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

レズビアンのセックスとは、こんなにも入れ替わり立ち替りするものなのだろうか。先ほどまではヒカルさんがアキさんを攻めていたはずなのに、いつの間にか選手交代し、今度はアキさんがヒカルさんを攻めていた。

愛おしむように、啄ばむように、アキさんがヒカルさんの身体中にキスをする。陶器みたいに白かったヒカルさんの肌は、愛撫されることで、少しずつ桃色味を帯びて血が通っていくみたいだった。

ちゅ、ちゅ、とヒカルさんの上半身にキスをしながらも、アキさんのその手は、ヒカルさんの下半身の秘部に辿り着いた。
「…濡れてる」
「えへへへ」
そう言って二人は見つめ合いくすくすと笑う。まるで秘密を共有するみたいなその笑顔は、子供同士の戯れのように、ある種純粋なものに思えた。

そして今度はアキさんがヒカルさんの足の付け根に顔を埋める。

「…ぁ……んふ……」
ヒカルさんの小さな喘ぎ声と、じゅ、じゅと蜜を吸っているような音が聞こえる。それは凄く卑猥な音なのに、不思議と全く下品じゃなかった。

しばらくすると、アキさんは体を起こしてヒカルさんと向き合った。
そして二人とも足を大きく開いて、まるで吸い寄せられるように、自身の陰部同士を密着させた。

これが…これが噂に聞いていた「貝合わせ」なのか。

「…ん…ぁ…ぁぁ…」

二人の喘ぎ声に混じって、ぬち、ねち、ぬち、と粘膜が擦れ合う音が微かに聞こえる。

女性器という窪みは、男性器という突起物と合うようにできている。そう思っていたけれど、生殖のためではない今のこの行為はなんだろう。それは全く汚れのない、完璧に美しいものに思えた。むしろ本当はこっちが人間の正しい姿なのではと、錯覚してしまうくらいに。

食い入るようにその光景を見ていると、そういえば、自分がろくに息をするのも忘れていたことに気付く。二人の喘ぎ声の邪魔をしないように、ゆっくりと鼻から深呼吸をした。

…胸いっぱいに入ってきたのは、女の子特有の、甘く切ない香りだった。

ピルルルルル

その時電話が鳴った。完全に二人に意識を持って行かれていた私は、体がビクッとするのが分かった。アキさんが、ばっと電話を取る。
「はい、20分前。はい」
通話口の先の御坊さんと何か話している。会話を終えると、こちらを向いてこう言った。
「御坊さんから伝言なんですが、やり残したことはないですか?って」
「やり残したこと…」

やり残したこと。今日のこれは複数ビアンコース。見るだけじゃなくて、自分も混ざることができる。

「あの…」

二人はとてもとても気持ち良さそうに見えた。女同士だと、男の人との交わりでは達せない、私の知らない境地まで行くことができるのかもしれない。

「…あの。質問なのですが」

先生に質問するように、バカみたいに手を挙げた。

「女の子同士だと、そんなに気持ち良いものですか」
「気持ち良いですよ〜」
「気持ち良いし、なにより安心です。なにもかも任せられるというか」
「ふふふふ」

二人は微笑みながらそう答える。

女の子というのは、なんでこんなに綺麗なのだろう。綺麗な顔をした、綺麗な体の二人を見ていると、足元からぐにゃぐにゃと、醜い自分の体が歪んで行くような気がした。
二人は天使のようだ。そして、悪魔みたいだ。なにもかも委ねたくなるような優しい笑みで、こっちへおいでと甘く誘惑しているみたいだ。

「そっか、気持ち良いんですね……」

どうしよう、どうしようどうしようどうしようと、ぐるぐると色々なことが頭の中を駆け巡る。今まで性的対象だと思っていた男の人ではなく、目の前にいるのは綺麗な女の子達。
私のダサい下着。今の濡れ場を見て、汗ばんだ私の体。気持ちよさそうな女の子達。柔らかそうで、すべすべした肌の、女の子達。

「気持ちいいんですね…うん…」

「何か、してほしいことはありますか?」

良い匂いの女の子。
…汗臭い私。

私は。

「…ありがとうございます…やっぱり気持ち良いんですねー…そっか…気持ち良いんだな…気持ち良さそうだもん…」

「…じゃあ、そろそろ時間なので、シャワー行ってきますね〜」
「あ、はい」

まごまごと迷っていたら、時間が迫ってきたため二人は再びお風呂に消えていった。
部屋には抜け殻みたいな自分だけが取り残されていた。薄い壁の向こうから、アキさんとヒカルさんが談笑している声が聞こえる。
水音と一緒に流れてくる、何を話しているのか分からない遠い笑い声を聴いていると、なんだか眠いようなふわふわと不思議な気分になった。
寝る前に付けっ放しにしていたテレビの音声を、夢の中で聞いているような。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「それじゃ、お疲れさまでした〜」
ヒカルさんは一人なんばの喧騒の中に消えていく。

「お疲れさまです」
アキさんも、別方向に歩いていく。

さすが御坊さんによる社員教育のおかげで、キャスト同士は交流しないというルールが徹底されている。仕事終わりで飲みに行くとか、駅まで一緒に行くとかもないようだ。さっきまで、あんなにも二人は愛し合っていた。ように見えたのに。

「…とりあえず、飲みに行けへん? 御坊さん」

夜のなんばの地下街を歩く。まだまだ夜はこれからと、通り過ぎていく大阪の女の子達はそれぞれ個性的なお洒落をしていて皆可愛い。無邪気すぎるようにも思えるその姿を見ていると、先ほど目の前で繰り広げられていたことは、やっぱり全て夢だったように思う。

「ありがとうございました」
「実際どうやったん」
「なんかもう、すごい。本当にすごい。女の子って、すごいんだよ」

興奮冷めやらぬなか、御坊さんに凄さを伝えようとするが、うまく言葉が出てこない。

「時間経ってるのが全然わからんかってん。あっという間に終わった」
「結局乱入せぇへんかったんやって?」
「…せやねん」
「せっかくやからレズしたら良かったのに。あの時電話で伝言したやん、やり残したことない?って」
「あーーーーーあの伝言って、やっぱりそういうことやったんや」

電話の呼び出し音と、ぬちゅぬちゅと粘膜が鳴る音を思い出して、一瞬で足の先から頭の先まで熱くなった。でも友人である御坊さんには、そんな風になったことをバレたくなくて、視線を外しながらこう言った。

「…まあ…御坊さんと友達やとなんか嫌やん…弱み握られるみたいでさ…」
「あはははは」

御坊さんはいつもの大きな声で笑った。

「なんにせよ、みわさんって…男やったら絶対童貞やな! あはははは」
「…わたしもそう思う」

確かに、これはまさに、せっかく友達の童貞を捨てさせるために風俗に連れていったのに、結局、そのまま童貞で帰ってきたみたいな感じだろうか。


「御坊さんはさ、アキさんの店出したいって夢、知ってたん?」
「知らんかった。すごいよねえ」
「ヒカルさんもヒカルさんでさ。あんなに可愛いから、将来何とでもなりそうやけど」
「ヒカルちゃんはいつもあんな感じやねん」
「そうなんや」

大人の魅力で溢れるアキさん。夢に溢れているアキさん。
華奢で可愛いヒカルさん。この先の人生がどうなるか分からないと言っていたヒカルさん。
二人はレズ風俗で働く女の子だ。夢を見たり、見れなかったりする、普通の女の子だ。

「…ちなみに、御坊さんの夢って何なん?」
「…なんやろなあ」
「難しい?」
「難しいなあ」

その後いつもの店で一杯飲んで、御坊さんは仕事があると言い帰っていった。でも私は、変に昂ぶった感情をどうにもお酒で冷ますことができなくて、ダラダラと飲み続けていた。

そろそろ終電の時間だという頃、やっとのことで重い腰を上げた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

夜のなんばを一人早足で歩く。

ふと、学生時代の親しい女友達のことを思い出していた。学生時代はコミュニケーションの一環として、手を繋いで帰ったり、ぎゅうと抱きしめ合ったり、じゃれながら服の上から胸を触ったり、そういうことが日常的にあった。きっと、多くの女性も同じように経験があると思う。

…そうなんだよ。女の子って柔らかいんだよなあ。
ああ、レズセックスって、どんな感じなんだろう。

何と言葉にしたら良いのか分からない。何か分からないけど、自分の中にずっとあった、ある種の「芽」に気付いてしまった気がした。そしてその小さな「可能性」という芽は、意識してしまうと何もかもの景色を変えてしまう力を持つものだ。
そして私はその芽を、完全に持て余していた。

あのまま、もし時間が充分にあって、御坊さんという友人の存在がなくて、私の下着が新品だったりしたら…そしたら、どうなっていたかな。

想像しまいと思っても、自分がアキさんとヒカルさんとセックスしている姿が頭に浮かんでくる。
触ったり、触られたり、舐めたり、舐められたり。股を開き、貝合わせをして、胸に顔を埋めて、二人に身を任せて。とてもとても気持ちよさそうにしている自分が頭に浮かんでくる。

あの時質問しなくても分かっていた。そんなもの、気持ち良いに決まっている。

…そして、流れ込んでくる卑猥な妄想に身を任せていると、自分と絡むアキさんやヒカルさんのその顔が、親しい女友達の顔にフッと入れ変わったりするのだった。まるで、天使か悪魔の悪戯のように。

わーーーーーーーと大声で叫び出したい気分だった。

どうしようもない気持ちが加速するのに伴うように、速足だった歩くスピードはどんどんどんどんと速くなり、最終的にほぼ走りながら日本橋駅の改札口に滑り込んだ。

荒い息をしながらホームに立つ。ゆっくりと鼻で深呼吸すると、いろんなものが混ざった、雑な匂いがした。

走ったお陰で、最終列車が来るまでは少しだけ猶予がありそうだった。

(201606)

参考リンク

レズビアンコース・デートコースがある
レズ風俗レズっ娘クラブ

鑑賞コースがあるレズっ娘クラブの姉妹店
レズ鑑賞クラブティアラ

messyの御坊さんインタビュー記事
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』で一躍有名になった女性向け風俗店「レズっ娘クラブ」の苦節10年史 オーナー・御坊氏インタビュー【前編】

大ヒット!さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ